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竹林先生のPCR検査の見解

竹林先生のPCR検査の見解

 

竹林 直紀
2020年11月23日
『無症状や軽い風邪症状でPCR検査を受けない方がいい理由』
PCR検査については多くの問題点があるにもかかわらず、他の選択肢が少ないため依然として新型コロナ検査の主流となっています。PCR検査自体は、その使い方を間違わなければ、DNAやRNAを高い精度で検出できる有用な手段です。ただ、今回のような新興ウィルスによるパンデミックにおいての感染者を特定する目的としては、慎重に検査を実施しなければ逆効果となり、様々な問題を引き起こしてしまいます。
現在実施されているPCR(リアルタイムRT-PCR)検査には、「精度」と「Ct値」の2つの問題点があります。精度については、「感度」(感染している人を正しく陽性と示す確率)と「特異度」(感染していない人を正しく陰性と示す確率)で評価され、100%確実に正しく診断できる検査法はありません。
今回のパンデミックにより世界中で行われているPCR検査は、「感度」は約70%、特異度は約99%と言われています。この意味するところは、例えば人口1000万人の都市で約1%の10万人が感染していたとすると、PCR検査を1000万人全員に実施した場合、偽陰性(本当は感染者で陽性なのに陰性となる)が3万人、偽陽性(本当は陰性で感染していないのに陽性となる)が9万9千人も出てしまうということです。
すなわち、無症状や軽い風邪症状の人も含めて検査をすればするほど、本当の感染者が感染していないと判定(偽陰性)されることで自由に行動して感染をさらに拡大し、実際には感染していない健康な人が感染者(偽陽性)として不当に隔離され、経済的に困窮したり社会的に差別を受けたりすることになってしまうのです。
本来、病院で一般的に行われている診療に従うならば、問診→診察→検査(血液検査、胸部X線、胸部CTなど)を実施し、事前確率が高い(新型コロナ感染症の疑いが濃い)と診断した患者さんに対して、特異的検査としてのPCR検査や簡易抗原検査などを実施して確定診断をすることになります。
これまでの他のインフルエンザや風邪などの感染症においても、まず症状が出た後に数日ほど様子をみて、改善しなければ病院を受診していたと思います。そして病院では先ほどの手順に従って診療し、診察所見や検査結果などから事前確率が高いと判断した患者さんに、簡易抗原検査や培養などの特異的検査を実施してきました。
ところが今回の新型コロナの特殊性は、これまでの通常の医学的診断プロセスをすべて無視して、無症状や軽い風邪症状という「事前確率の低い」人々に対してもPCR検査を実施し、その結果を優先させ診断して報告しているということです。通常の医学的常識で考えると、あり得ない状況が実は現在起こっているのです。
明らかな症状があり、診察により事前確率が高いと判断されて行うPCR検査は、診断を確定する補助として有用です。しかし事前確率が低い人達へのPCR検査は、偽陰性や偽陽性者数が多くなるため、逆に感染拡大と社会的混乱といったリスクが大きくなってしまうのです。
もう一つのPCR検査の問題は、検査結果で陽性と判断する基準となるCt値です。このCt値については、以前(10/18)に投稿した内容を再度引用いたします。
PCR検査は、人工的に合成した短いDNA断片(プライマー)を使用して、ウィルスRNAの一部から作られたDNA鋳型を使い、何回もコピーを繰り返すことで検知できる量にまで増幅します。従って、理論上はウィルスのRNA断片が一つでもあれば、コピーを繰り返すことで検知可能な量にまで増やすことができるのです。
この検知可能な量に到達するまでのコピー回数をCt値(Threshold Cycle)と言います。コピー回数が増えるに従って指数関数的(ネズミ算的)に急激に量が増幅されるため、最初のウィルスのRNA断片の量が多いほど低いCt値で陽性と判定されます。しかしこの検査は、ウィルスのRNAの一部を検出しているに過ぎないので、ウィルス活性(感染性)があるかどうかはわかりません。
ウィルスの感染性を検査するためには、生きている細胞を使って培養する必要があります。感染性がある活性ウィルスであれば、その細胞を利用して増殖していきます。感染性のない不活性ウィルスや免疫細胞により破壊されたウィルスのRNA断片であれば、培養しても増殖しません。
PCR検査陽性者が実際に感染しているのかどうかは、その同じ検体を培養してウィルスの増殖の有無を確認しないと実際にはわかりません。これまでPCR検査のCt値とウィルス培養結果を比較したいくつかの研究報告があります。これらの結果からは、PCR陽性者のCt値とウィルスの培養結果の間に一定の相関が認められています。
フランスのマルセイユにあるメディテラネ感染症大学病院研究所と、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学病理学教室医微生物学部門から報告されているCt値とウィルス培養結果のグラフを、分かり易いように日本語に修正して罫線や枠、コメントなどを追加してみました。
フランスの研究所のグラフからは、Ct値30前後のPCR陽性者は、約半分が感染力のない不活性ウィルスのようです。またCt値が34以上でのPCR陽性者は、ほぼ100%感染力のない不活性ウィルスです。米国のジョンズ・ホプキンス大学のグラフも、Ct値が30以上はほぼ感染性のないウィルスのRNA断片を検出しているようです。
Ct値がどのレベルまでを陽性と判定するのかという基準は、国によっても決まっておらず検査施設ごとにおいても統一されていません。台湾と日本とアメリカとスウェーデンの4ヵ国のPCR陽性判定のCt値の比較では、台湾が35と一番低く日本が40~45?と最も高い数値となっています。この中では台湾が最も妥当な基準値であり、感染症対策も現実に即して効果的に実施されたと考えられます。
欧米を中心に第2波?と言われる感染拡大が現在報道されていますが、各国の死者数の推移を見る限り、検査件数の増加によるケース・デミック状態であり、大部分が免疫を獲得している既感染者の再暴露によると思われます。無症状や軽症者へのPCR検査を行う場合は、結果のCt値も合わせて報告しないと無意味であり、社会的混乱を招くだけではないでしょうか。


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