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田代歯科医院ブログ カテゴリ:歯周病関連

10年先を見据えて~歯科界の光と影~

 4/5日、福岡県歯科医師会館で九州歯科大学同窓会主催の学術講演会に参加してきました。講演タイトル、講演者、抄録を紹介します。

10年先を見据えて~歯科界の光と影~

東京歯科大学教授 井上 孝 先生

抄録: 2009年2月7日(土曜日)、8日(日曜日)に第102回歯科医師国家試験が行われました。大学より卒業生の主任を仰せつかったため、指導に明け暮れたという感の強い1年でした。さて、今回の試験の出題形式では、本講演会のタイトルを表すかのような問題が多く出されたという印象で、限りなく医科系のイメージが強くなっています。講座関係単独の問題というより、基礎臨床を統合した問題が増え、摂食嚥下、医療安全、障害者歯科、老年歯科、そして内科的問題などが数多く出題されていたのが印象的でした。
 翻って、歯科医療を見てみますと、MTなる診断名により、欠損をいかにして修復するかに主眼が置かれ、診断に関わる検査や診断後の評価に用いる検査がなく、エビデンスを構築するための基盤を持っていなかったように思います。歯周ポケットがどのくらい深いのか、プローブで計測することを歯科では検査と呼んでいますが、それは病態を知る手段ではないとおもいます。一般外科の先生が皮膚に裂傷を起こした患者さんに行うでしょうか。消毒をして、細菌検査をして、
それにあう抗菌薬を投与するはずです。もし、筋肉まで損傷が及んでいれば、筋肉の創傷の治癒の悪さを考慮して縫合を工夫し、リハビリもするでしょう。すなわち、国家試験で問われはじめた問題は、歯科医療も医療であることを認識するようにと厚生労働省が言っているようにも思えます。
 このような状況にあって、歯科界でも、口腔疾患に関わる検査の開発、臨床現場への普及、検査値の標準化・標準値管理、検査・診断機器の開発、臨床検査会社との連携などを強力に推進する必要があると考えており、平成20年には日本口腔検査学会を立ち上げました。しかし、検査をして、診断名や治療方針が決まれば、今度は患者に説明する(医療面接、インフォームドコンセント)ことが重要になります。現実では、大学に入るために理科系のIQ(知能指数)のみで入
学した学生に、文科系のEQ(情動指数)を高めるために教育する必要がでています。いかに検査をして、病態と診断名が分かり、治療方針が決まっても、患者に接する説明態度が悪ければ、患者は満足しません。大学では今、OSCEなる新しい臨床評価機構ができ、模擬患者(ある疾患を装うボランティア)が活躍するようになりました。”どうなさいましたか”、と頬を押さえている模擬患者に”歯痛ですね”と共感を求めろと教えます。教官は”君は今患者に共感していなかった・・・”と学生を叱り、駄目の評価が下されることになります。自分は大学時代少林寺拳法部に所属していました。”井上、防具もってこい””井上、掃除しとけ””井上遅いぞ・””井上それじゃ駄目だ・・・”と天皇、神様、仏様の先輩たちの声が鳴り止まない道場でした。それでも試合で負けても先輩たちに怒られた記憶はありません。一生懸命行ったことに賞賛さえくれたものです。怪我をして試合に出られない人間に”怪我をした部分が痛いんだよね”などと聞く部員は一人もいません。”井上の分まで、俺が頑張るから・・・・”です。私見としては、OSCEをするなら、学生が全員運動部に所属すればよいとも思っています。これは冗談としても、教育結果(国家試験合格率など)が期待されている現在、教育の重要性を改めて考える今日この頃です。
 勿論、態度だけが良くても病態学を知らなければインフォームドコンセントはできません。病態学とは、疾病ににおける形態と機能および代謝の変化を研究する学問です。昨今話題となっているGTR、エムドゲイン、接着性レジンそしてインプラントなどは、病態論的に考えれば、如何に生体親和性が良くても非自己です。歯牙でも齲蝕や歯周病に罹患して、感染象牙質やセメント質となればその部位は非自己ですし、癌になれば生体が作り出した非自己です。非自己であれば生体はそれを排除するように働くのです。医療は、非自己を排除し、自己の治癒を妨げる因子を排除することに始まります。良かれと思って行う研磨剤を用いたポリッシングで、もし研磨剤がポケットに入れば、立派な異物を伴う病態になってしまいます。私は、この理論に基づき、排除されないために材料を開発し、再生または創傷の治癒を起こし生体を改善する研究を行っています。
 この度は、講演の機会を与えていただき、歯科医療の行く末などを考え、少しでも皆様方の日常臨床のお役に立てばと思い、現在・過去・未来の歯科について病態生理学的に、また臨床検査学的に考えてみたいと思います。さらに、医療の質の保証と患者の安全が医療安全の大前提ですが、そのためにも病態論と、それを治療するための検査をもう一度考えて頂きたく思います。何卒宜しくお願い申し上げます。

講演を聞いた後の感想を簡単に列記します。                        ・ 病態を把握するために検査を充実させることが非常に大切だと思いました。
・ 同時に、その検査に基づいてどのような診断がされ、どのような治療が選択さ   れ、行われていくのかを一連の流れとして示す必要があると思いました。
・ 10年後に歯科医療も医療であるということが示せる歯科界になることを願っています。

 


口腔ケア研修会

 3月28日(土)、小倉歯科医師会館で行われた口腔ケア研修会にスタッフ二人と 一緒に参加しました。演題・演者・講演抄録を紹介します。

3つのポイントで見る要介護高齢者への口腔ケア

大阪大学院歯学研究科 高次脳口腔機能学講座                                 無限責任中間法人 TOUCH 舘村 卓 先生

 救命医療の発達により、かつては致命的であった疾患から命は救われる人々の数は増加しています。しかしながら、致命的な疾患を有する前の状態にまで機能が回復し、社会復帰出来る人の数はいまだ少ないのが現状です。すなわち、救命率の上昇は、障害を保有している人々の増加を意味しています。社会参加を妨げる障害の一つが摂食嚥下障害です。
 臨床現場で、疾患治療後の急性期に呼吸路を守るためとの考えで非経口的代替栄養法 (チューブ栄養、TPN、PEG)が採用されます。しかしながら、このような処置が正確な嚥下機能についての評価を行わずに施されると、長期的にはむしろ栄養障害や嚥下障害を惹起することもあります。そのため、経口摂取の重要性があらためて認識されるようになりましたが、経口摂取機能を容易には回復できていないのが現状で、その対応が求められるようになっています。
 現在、摂食嚥下リハビリテーション学会では、成人では脳血管障害、小児では発達障害を嚥下障害の二大原因として扱い、とくに脳血管障害の急性期の終わりから回復期にかけての対応については、医科、歯科を問わず多くの成書が入手できるようになりました。しかしながら、それら多くの成書では方法論が紹介されていますが、生理学的根拠は説明しておらず、「誤魔化している」と思えるような記載もあり、「理論の無い方法論」のために、むしろリスクを増強しているかのように見える場合もあります。
 一般的に歯科医療者が急性期の脳血管障害の患者さんに対応することは少なく、むしろ救命後の維時期において退院し、施設や在宅で過ごす要介護高齢者の方々への「訪問診療」「訪問口腔ケア」の際に「嚥下障害」の問題に遭遇することが多いと思います。それは、口腔ケアが刺激性唾液を誘発すること、元来歯科医療が水を使う医療であるために、嚥下機能についての知識や診断、対応法が要求されるためです。しかしながら、このような人々への対応は、脳血管障害への対応法は有効ではなく、全く異なった概念が必要です。
 今回、1)呼吸路の安全性の確保、2)口腔咽頭機能の賦活、3)食事の調整をキーワードに、「現場の口腔生理学」によって考えてみたいと思います。

 小倉歯科医師会館がほぼ満席状態で、口腔ケアに対する関心が高いことを感じました。また歯科医師・歯科衛生士だけでなく栄養士さんもかなり来られているようでした。私は治療後、患者さんがどのように食事をしているのかを確認することがほとんど無いので、その必要性を強く感じました。また経鼻胃チューブを染め出すと、真赤になりプラークが付着しているのにはびっくりしました。今後も口腔ケアの勉強を継続していきます。           

 


JACD春の例会

 3月22日(日)、JACD春の例会が株式会社ヨシダ九州支店            (福岡営業所)でありました。当日の内容を紹介します。

司会進行:高村聖一先生

開会挨拶 JACD会長 上田秀朗 先生  

第1題 「長期治療こそ患者さんに喜んでもらいたい!!」
発表者:延藤秀樹 先生 座長 田中憲一 先生
第2題「全身・口腔を考えながら・・・力を常に読む」
発表者:上谷智哉 先生 座長:樋口琢善 先生

第3題「全顎治療に兆戦」
発表者:永山雅大 先生 座長:桃園貴功先生
第4題「開業1年後までの取り組み~初期治療を中心として~」
発表者:有川公志郎 先生 座長:小松智成 先生

基調講演
「咬合最構成 その1 ~姿勢・顔貌・発語を考慮して~」
発表者:三橋哲哉 先生

基調講演
「二人で見えてきた”歯科臨床”~35年×2の軌跡~」
発表者:筒井照子 先生

閉会挨拶:JACD副会長 国賀 就一郎 先生

若い先生方が、基本を大切にしながら
最新の知識・技術を駆使して臨床を行っている姿は                   素晴らしいと思いました。

態癖の前には、完璧と思われた歯周治療・補綴治療も崩壊してしまいます。
態癖の診断・対応が長期的な補綴物の維持に影響を及ぼすことが         よく分かりました。

例会後は、中洲の華味鳥で水炊きに舌鼓を打ちながら                ナイトサイエンスを楽しみました。


第24回 日本審美歯科協会 学術講演会

 3月15日(日)に、第24回日本審美歯科協会学術講演会に参加してきました。
福岡国際会議場(国際会議室501、展示ホール502・503)で開催され、当日は非常に天気もよく、会場から博多湾が凄くきれいに見えました。思わず、見とれてしまいました。                                                                                                                               
       

 今回は”審美歯科のトレンドを探る”というテーマの下、現在臨床の先端を行く新進気鋭の先生方が「ニューマテリアル」「ダイレクトレストレーション」「審美インプラント」「包括歯科診療」に焦点を当てた講演をしてくれました。また、参加者主導型のスマイルギャラリー、審美企業フォーラムという企画もあり有意義かつ楽しく時間を過ごすことができました。

 どのプレゼンテーションでも歯周病の治療が充分されたうえで、審美修復・補綴がされていました。現在の歯科治療では、歯周病の治療は空気のように必須なものであることを再認識しました。ただ質問の時間が無かったのが惜しまれます。来年は25回の記念大会が東京で開催されるそうです。

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九州歯科大学臨床歯周病研究会 創立15周年記念講演会

3月8日(日)に九州歯科大学臨床歯周病研究会 創立15周年記念講演会が小倉歯科医師会館でありました。記念講演会について報告します。

13:10 ~ 14:10
特別講演①
演題:「SPT中の再発症例についての検討と予後診断法の開発」
~ Clinical Progonostic Indicatorの解明   ~ 

演者:九州歯科大学歯周病制御再建学 教授 横田 誠 先生
抄録:Axelsson & Lindhe 1981年はメインテナンス中の付着の喪失を予防するにはメインテナンス中のPMTCに代表されるSPTによる長期維持管理の重要性が認識されてきている。一方、例え適切な維持管理を行っても再発が起こりやすい患者がいることも臨床的に経験するところである。今回は、基本治療によるpoor rsponsive patientはSPTにおいても再発傾向が高いことをベースに、biomakerや咬合因子などのprogonostic indicatorについて述べる予定である。

14:20 ~ 16:00
特別講演②
演題:「長期経過症例から見えてきたこと、まだ見えないこと」
演者:北川原歯科医院院長 北川原 健 先生(長野市開業)
抄録:卒業して半年にして父の急病のために長野に帰って臨床に入ってから40年が経過してしまいました。大学で勉強した経験を持たない私はただひたすら自分が処置したものの経過を診、推論することから知識を得てきたように思います。その中からいつかは臨床への考え方に「普遍性」を得たい・・と考えていましたが、人の変化は多様で未だに思考錯誤を繰り返す毎日を送っています。経過を診るという意味では捨てないで保存してきた20万枚になるであろう口腔内写真とカルテ袋の中にあるX線写真は役に立ちました。それらを見ていくといくつかは「普遍性がある・・」とよんでもいいと思われる事柄にも思い至りました。「臨床診断」「臨床経過」「臨床考察」という言葉が私は好きなのですが、今回は一つの症例の処置経過を軸として、「何故こう考えて処置したのか」「どんな結果になっているのか」を、長期経過症例を絡ませてお話してみたいと思っております。前述したごとく「EBMに基づく歯科医療」とは反対側にある形のものであり、フランス料理のフルコースのような美しくおいしいものではなく、信州そばやおやきのように貧しく栄養価も低くあっさりした、しかも賞味期限が切れかかっているものです。九州の方のお口に合うとは思えませんがご試食頂ければ幸いです。

2つの特別講演とも歯周病治療、いや歯科治療の本質に迫るものでした。患者さんにとっては、歯周病そのものがストレスになり、口の中だけではなく全身に影響を及ぼすということがよくわかりました。長期的に患者さんの経過を観察し、そこから得られる事実は、論文や実験とは違った説得力がありました。もっとディスカッションの時間が欲しかったです。

 


九歯大 基礎・臨床セミナー

 3月1日日曜日、九州歯科大学同窓会主催の基礎・臨床セミナーに参加してきました。今年に入ってこのセミナーを受講したのは3回目です。毎回、いろいろなことを勉強できます。午前中は”ぺリオ”についてでした。実は講演者の村岡先生は、医局の後輩です。また白石先生は、上田塾のメンバーです。
午後は”医療安全”についてでした。講演のタイトルと講師の先生を紹介します。

午前 9:30~12:00
メインテナンス・SPTの重要性について
~ 様々な症例から捉える ~
講師:村岡 宏祐 先生(九州歯科大学 歯周病制御再建学分野)

歯周外科成功への鍵 Part2
講師:白石 和仁 先生(北九州市小倉南区 開業)

午後 13:00~15:30
安全な歯科治療のための一工夫
講師:椎葉 俊司 先生(九州歯科大学 歯科侵襲制御学分野 講師)

一般開業医における院内感染防止対策の構築方法について
講師:生田 図南 先生(熊本県天草市 開業)


第35回 北地区・北九州歯科医学会

 

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 2月15日(日)に第35回北地区・北九州歯科医学会が北九州国際会議場で開かれました。幸運にも私は、八幡歯科医師会会員として発表の機会を得ることが出来ました。関係者の皆様、ありがとうございました。抄録を紹介します。

           歯周治療に魅せられて
    -先入観・固定観念を打破してくれた症例-
 
 現在の歯周治療はGTR法やエムドゲイン等による再生療法、補綴やインプラントを絡めた歯周形成外科などが講演会や誌上で脚光を浴びています。これらの処置は、目を奪われるような治療結果を提供してくれ、臨床家の憧れの的です。
これは歯周治療の華やかな側面でしょう。一方、派手な処置ではありませんが、適切な診断や長期的かつ確実な歯周基本治療は、
再生療法にひけをとらない結果に結びつくことがあります。              これは地味ではありますが、歯周治療の本質的な部分であり、
一般臨床家にとっては、患者さんとの信頼関係を構築するために           非常に重要な要素となります。また、良好な状態に歯周組織が管理された場合、矯正治療の併用は、歯周組織の改善をもたらすことがあります。
今回の発表では、私の臨床における先入観・固定観念を打破してくれた3つの 症例を供覧していただき、皆様のご批判・ご指導を仰ぎたいと思います。     さらに、本学会のテーマが「歯科医療の基本に立ち返る」ということから、歯周治療を通して、「歯科医療の基本とは何か」ということも考えてみたいと思います。        

 下の写真は講演の時のものです。最初は原稿を読んでいたのですが、無意識のうちに演台から離れて話をしていました。30分はあっという間に過ぎてしまいました。終わってホッとしました。

 


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